蜜月同棲~24時間独占されています~

「ちょっとお父さん。大事な役目があるんだから顔洗ってきたら?」

「今洗ってもどうせすぐ泣くから無駄じゃない?」


姉と母が笑って茶化そうとしたのだが、それも通じないほどの落ち込みぶりだった。


「……お父さん」


元々は母が強引にお見合いに持ち込んできたのだし、父も喜んでいてくれたはずだった、のだが。
心配になって声をかけたが、父は影を背負ったままで、私の言葉に返事をくれたのは母だった。


「心配しなくても大丈夫よ。父親なんてこんなものだから」

「お姉ちゃんの時も、そうだったっけ?」


姉は、結婚式は挙げていないが。


「出て行く前日は、大変だったわよ。ベッドでグスグス泣いてたんだから」


こそっと母が耳打ちで教えてくれた。




オルガンの音が鳴り響く。
重厚な扉がゆっくりと開き、続くヴァージンロードの先に青いステンドグラスが陽の光を透かしている。


そこに克己くんの姿を見たとき、それまでとは違った緊張感にどくんと心臓が鳴った。


「……行くぞ」


父が足を進め、私も一拍遅れて続く。
近づくほどに克己くんの顔がはっきりと見えてくる。


彼は、一歩、一歩とヴァージンロードを踏みしめる私をただじっと、見つめていた。



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