蜜月同棲~24時間独占されています~
以前なら、腕に絡みつく勢いで懐きに行っていたのに、なんだか緊張してしまって、数歩の間隔を空けて立ち止まる。だけど、名前を呼ばれた瞬間に学生の頃の懐かしさが押し寄せて、緊張を上回った。


「柚香」


ふわ、と綻ぶ微笑みは優しい。


「克己くん! 久しぶり!」


顔を合わせるのは八年ぶりだ、と思えば心が高揚して涙が滲んだ。


「久しぶりじゃないって。こないだ会ったの本当に覚えてないんだな」

「あ」


克己くんの顔が、くしゃっと苦笑いに変わる。そうでした、と私は改めて背筋を伸ばし腰を折った。


「ごめんなさい。迷惑かけちゃって」

「いいけど。酒飲んでる柚香が新鮮だった」

「私だってとっくに社会人だしお酒くらい飲むよ」

「当たり前なんだけど、違和感がすげえよ」


しみじみと、疎遠になっていたこの数年の長さを思うような相槌だった。
その表情が少し切なげで、私の心の奥を擽る。


「いつまでも子供じゃないもん。あのね、それより聞きたいことがあって」


その視線に見つめられていると何か落ち着かなくて、焦って先日のことへ話題を切り替えた。事実、今日はそれが目的だ。すっぽり抜けている記憶の穴を埋めることと、ウェディングドレスの行方を聞きたかった。


「ああ、ちゃんと話すし、俺も聞きたいことがある。乗って」


彼の目が怒りを湛えたような鋭いものになる。長く離れていても、子供の頃からの付き合いだ、彼が何かに怒っているのはすぐにわかった。


「克己くん?」


戸惑いながら名前を呼んでしまう。だけど次の瞬間には、彼はぱっとまた柔らかい微笑みに代わり、車の助手席のドアを開けてくれた。

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