蜜月同棲~24時間独占されています~
うる、と涙が膜を張った。


「あ、ありがと」


きっと、昔から私は『妹』だったんだろう。
初恋の痛みをちくりと胸が思い出したけれど、それ以上に嬉しかった。


何年も離れていても、私のことを家族だと思ってくれているのだと、嬉しかった。


「俺よりうちの母親のがすげえ剣幕。柚香ちゃんにはもっと良い人がいるはずだって」

「あはは。だといいけど」


涙ぐんで俯く私の頭に、優しく克己くんの手が触れた。
優しい手に、ぽん、ぽんと宥められ余計に泣けてくる。


「さっさと忘れろ、そんな最低な男のことは」

「……ねえ、もしかして、だからドレス隠したの?」


なんとなく、彼がドレスを持ち去ったと聞いてから、そんなような気がしていた。


「あんなもんがあったら、いつまでも忘れられないだろ」

「起きたらなかったから、びっくりした」

「悪かった。けど、返さない。今のお前見てたら、返せない」


彼は真剣な目で私を見つめ、そう言った。


あの時は確かにびっくりしたけれど、私も今となっては彼が持ち去ってくれてよかったと思っている。
でなければ、私はあのワンルームマンションの狭い空間に、苦い想いを抱えてドレスと一緒に閉じ込められていたのだから。


そんな状態では、忘れようにも忘れられるわけがない。
だからきっと、今はこれがベストなんだろう。


「……でも、あれお姉ちゃんが作ってくれた大事なものなの。だから、私が忘れられるまで預かっててください」


そう言うと、彼は複雑そうにだけれど頷いた。


< 30 / 200 >

この作品をシェア

pagetop