蜜月同棲~24時間独占されています~
「こないだからネットで探してるんだけど、この時期ってもう四月からの新入生、新入社員で良いとこは空いてなくて」
「だろうな」
「出て来るのは、広いけど独り暮らしには高すぎるとか駅から遠すぎるとかばっかりで。明日は不動産屋直接当たってみようと思ってるの」
「そういう予定になってたことは男もわかってんだろ。向こうから何か言ってくることはないのか」
「ないよ。多分自分のことで精一杯だと思う」
赤ちゃんが出来たから花嫁交代です、なんて、体裁が悪いのは寧ろあちらの方だ。
私のことなんて考えてる余裕もないだろう。
「ていうか、アパート探し手伝うとか言われても頼る気にはなれないし」
「当たり前だ。言われても無視しろよ」
「わかってる。って、何か言ってこないのかって言ったの克己くんなのに」
「向こうはそれくらい言って来て当たり前。それを受けるかどうかは別の話だ」
言いながら、彼がスーツの内側に手を入れる。
名刺入れを取り出すとそこから一枚引き抜いて、裏に何かを書き足した。
「住むとこ見つからなかったら言えよ。部屋くらい用意できるし、仕事辞めるならうちで働いてもいい」
「え、辞めるって私が?」
「居心地悪いんだろ。男の方は辞めないだろうしな」
差し出された名刺を手に取る。
さやかが渡されたものと同じで、会社の住所や連絡先が書いてある。
裏側を見ると、綺麗な字でまた別の住所が書いてあった。