蜜月同棲~24時間独占されています~
吐き捨てるようにそう言うと、彼は再びカメラを構えてシャッターを切る。
その音を呆然と聞きながら、私は立ち尽くしていた。


「……私があっさり引き下がるから?」


パシャ。
パシャ。


「もっと、縋りついてればよかったの?」

「そこまでは言わないけどな。お前泣きもしなかったなと思って」


泣いて縋ったからといって、どうにもならないことをわかってて。
彼女の背中を撫でて労わるこの人に、なりふり構わず醜態を晒して欲しかったってこと?


私がちっとも辛そうに見えないから、悔しいってこと?


「そうしたって何も変わらないじゃない」

「わかってても抑えられないのが感情ってもんだろ」


ぎゅっと拳を握りしめた。
そうでもしなければこの人の前で泣いてしまいそうで、奥歯もかみしめる。


決して、この人の望むような涙ではない。
悔しさと憤りと、虚しさの涙だ。


「……失礼します。後程、撮影画像確認させてください」


震える声をなんとか絞り出したが、彼の返事はない。
けれど構わず部屋を飛び出した。新田さんの仕事に間違いはないとそこは信じているから、ちゃんと商品を可愛らしく魅せる画像が仕上がってくるはずだ。


早足で廊下を歩き、隠れる場所を探してトイレに逃げ込む。


ねえ、新田さん。
あなたの前では泣けなかっただけで、たくさん泣いたんだよ、私。


なのに、まるで私に心がなかったみたいに言うのは酷い。





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