蜜月同棲~24時間独占されています~
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私たちの勤める会社は、主要駅から少し離れた立地の五階建てのビルだった。
女性をターゲットにした雑貨やコスメの販売を行っている。
海外にも進出している大手化粧品会社星和堂の関連会社で、人気のある業種で僅かな採用枠に入ることができたのには理由がある。
実は星和堂の社長夫人とは母が昔馴染みで、幼い頃から付き合いがあったのだ。
子会社の採用にまで関わってはいないとおば様は言っていたし、入社してからもコネだとか陰口を叩かれたこともないけれど、もしかして少しばかり手を貸してくれたのじゃないかと思っている。
私の所属する販売部は十人で仕事を回しており、新田さんも綾奈もそのメンバーだ。
つまり、嫌でも毎日顔を見ることになる。
それを思うとまるで鉛でも飲み込んだかのように胃が重い。
だけど、仕事である以上嫌だなんて言ってはいられなかった。
月曜、朝。
背中の中ほどまで伸ばした薄茶の髪を、いつもより念入りにスタイリングした。
襟がレースになった白のブラウスに紺のプリーツスカートという、お気に入りの組み合わせで気合を入れる。
けれど、泣きはらした目だけはメイクでどうにもできなかった。出勤してすぐさま、オフィスに入る手前で同僚の神崎さやかに通路の隅に連行された。
「柚香、あんたどうしたのその顔」
「……わかる?」
「泣いた後ってまるわかり。新田さんと喧嘩でもした?」
重たい瞼を両手の指で軽く抑え、マッサージをしてみるものの、そんなことは今朝起きてから食事も摂らずにやっていた。その上で、この状態なのだ。
「喧嘩なら、良かったんだけどね」
「何よ?」
始業までの数分で簡単に話せる内容でもなく、お昼休みにと言おうとした時だった、彼の声が割り込んだのは。
「柚香」
びくん、と情けないほどに肩が跳ねて、声を聞いただけ涙が出そうになった。
私たちの勤める会社は、主要駅から少し離れた立地の五階建てのビルだった。
女性をターゲットにした雑貨やコスメの販売を行っている。
海外にも進出している大手化粧品会社星和堂の関連会社で、人気のある業種で僅かな採用枠に入ることができたのには理由がある。
実は星和堂の社長夫人とは母が昔馴染みで、幼い頃から付き合いがあったのだ。
子会社の採用にまで関わってはいないとおば様は言っていたし、入社してからもコネだとか陰口を叩かれたこともないけれど、もしかして少しばかり手を貸してくれたのじゃないかと思っている。
私の所属する販売部は十人で仕事を回しており、新田さんも綾奈もそのメンバーだ。
つまり、嫌でも毎日顔を見ることになる。
それを思うとまるで鉛でも飲み込んだかのように胃が重い。
だけど、仕事である以上嫌だなんて言ってはいられなかった。
月曜、朝。
背中の中ほどまで伸ばした薄茶の髪を、いつもより念入りにスタイリングした。
襟がレースになった白のブラウスに紺のプリーツスカートという、お気に入りの組み合わせで気合を入れる。
けれど、泣きはらした目だけはメイクでどうにもできなかった。出勤してすぐさま、オフィスに入る手前で同僚の神崎さやかに通路の隅に連行された。
「柚香、あんたどうしたのその顔」
「……わかる?」
「泣いた後ってまるわかり。新田さんと喧嘩でもした?」
重たい瞼を両手の指で軽く抑え、マッサージをしてみるものの、そんなことは今朝起きてから食事も摂らずにやっていた。その上で、この状態なのだ。
「喧嘩なら、良かったんだけどね」
「何よ?」
始業までの数分で簡単に話せる内容でもなく、お昼休みにと言おうとした時だった、彼の声が割り込んだのは。
「柚香」
びくん、と情けないほどに肩が跳ねて、声を聞いただけ涙が出そうになった。