琥珀の奇蹟-MEN-

『君たちは、いつもこの席に座るんだな』

マスターが薄紫色のビードロに入ったお冷を置きながら、面白そうに話す。

『君は左側、柚希ちゃんは右側だね』
『マスター、よく覚えてますね』
『何か意味があるのかい?』
『いえ、僕はいつもの癖で…でも、柚希はその窓から路地の先を眺めるのが好きみたいです』
『なるほど…ああ、そういえば今日もこの席で窓の外眺めてたなぁ』

言われて、今日柚希がこの店に現れていたことを思い出す。

数時間前には、目の前の席に柚希が座っていたのだと聞いて、なんだか不思議な感じがした。

『今日は残念だったね、せっかくのクリスマスなのに…仕事だって?』
『あ~はい…でも仕事なんで、仕方ありません』
『…そうか』

そこで何故か一瞬、間があり、直ぐに『いつもの珈琲でいいかい?』と笑顔で聞かれ、お願いしますと即答する。

カウンターに戻るマスターの後姿を見ながら、ふと最初にこの店に来た日のことを思い出していた。
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