琥珀の奇蹟-MEN-
柚希と付き合い初めて、最初のデートをした日。
突然降ってきた通り雨に、少し雨宿りをしようと、立ち寄ったこの店は、実のところ、自分がこの街に住み始めた頃から、ずっと気になっていた店。
趣のある外観と年季の入った高価なアンティーク品ばかりが並ぶ、いかにも高級そうな茶店。
そんなイメージが先行して、なかなか入る勇気がなかった未開の場所。
折しも、初デートで少し気が大きくなっていた俺は、この機会に…と、柚希を連れて初めてこの”琥珀堂”の扉を開けた。
一度足を踏み入れれば、このレトロ感たっぷりな空間に、二人して引き込まれてしまう。
心配していたお値段も良心的で、何より店の雰囲気と、それ以上にマスターの温かな人柄に惹かれ、いつしか自然に、互いの待ち合わせの場所になっていた。
あれから、もう3年が経つ…。
目の前の冷水を一口飲み、上げた視線の先にちょうどあった古い柱時計で時刻を確認し、店に入ってから、まだ大して時間が経っていないことに驚く。
時間の流れが遅く感じるのは、この店の雰囲気がそうさせるのだろうか。