琥珀の奇蹟-MEN-
そもそもこの店に来るときは、柚希が先に来ていることがほとんどで、こんな風にここに一人でいることなど稀だった。
いつもだったら目の前に柚希がいて、他愛のない会話を交わしてる。
珈琲ができるまでの間、何気なく自分の鞄の中から今日柚希に渡すつもりだった小さな箱を取り出し、しばらく手のひらで転がすと、ゆっくりテーブルの上に置いた。
直径5㎝四方の箱は、やけに高そうな包装紙で包まれ、斜めにかかっているリボンもその上の小さなコサージュも、その内側に秘めた特別な品を美しく演出してくれている。
この3年のうちに、いくつかの贈り物で柚希のリングサイズはリサーチ済み。
ただ、今までのそれとは、全く意味合いの異なるその品は、値段だけじゃなく、安易な気持ちで渡せるようなものではない。
この小さな箱にズシリと感じる重みは、質量では計り知れないもの。
実のところ今日は渡すことができなかったが、もう随分前から準備はしていて、後は渡すタイミングだけを計ってきた。
そういう意味でも、クリスマスは絶好のチャンスだったのだが…。
左側の窓の外に視線を移すと、相変わらず雪は降り続き、足元が滑りやすいのだろう、狭い路地を歩く人は皆、一様に下を向いて慎重に歩いてる。
その景色をボンヤリ眺めながら、恋人の柚希を想う。