琥珀の奇蹟-MEN-
隆弘⑥
大粒の雪が降りしきる駅前は、30分程前と同じ場所とは思えないほどの混雑様。
この辺りでは比較的大きな、いくつかの路線が停車する駅なだけに、元々通常時も利用客が多い駅ではあるが、平日のこの時間帯に、こんなに多くの人がいることなど見たことがない。
駅舎の入り口でアナウンスする駅長の話では、この雪で各路線の電車は止まり、唯一動いている私鉄も様子を見ながらの走行らしく、かなりの遅れが続いているらしい。
目的地である柚希の住む街までは、ここから急行を使えば15分。各駅停車ならその倍はかかる。
ちょうど近くにいた駅員に、状況を確認するも、この天候では全く再開の目途はたたないとのこと。現実的に、電車で向かうのは諦めざるえない。
仕方なく、バスのロータリーに向かうも、こちらも当然のごとく、電車で帰れなくなった人たちで埋め尽くされていた。
電車が止まったことで、各社臨時のバスも出ているようだが、この長蛇の列では、後数時間は立ち尽くすことになりそうだ。
『…参ったな』
吐く息とともに呟き、この際費用はかかるが…と、タクシー乗り場を見るも、こちらの方こそ、いくつもの列が連なり、自分の番まで廻ってくる来るまでには、夜が明けそうな気さえする。
【…どんなに離れていても、真実の愛で惹かれ合う男女は、強く引き寄せてくれるんだそうだ】
八方塞がりの状況に、さっきのマスターの言葉が頭をよぎる。