琥珀の奇蹟-MEN-
別に、そんな迷信めいたことを、真剣に信じているわけじゃない。
それは所謂、女性が好む占いみたいなものなのだろう…程度の話。
第一よく考えてみたら、今日会えないからといって、二度と柚希に会えないわけじゃない。
そもそも俺達は遠距離恋愛でもなく、後数日もすれば、互いに仕事納めを迎え、年末の連休に入れば、いくらでも会える。
どちらにしても、この状況下ではどうしようもないことだ。
俺は何故か自分自身に言い訳をしながら、結局柚希に会いに行くことを断念し、独り暮らしの部屋に帰るべく歩き出した。
駅に背を向け、歩道橋を渡り、なだらかな上り坂が続く広いバス通りを、まっすぐ自宅方面へと進む。
午後11時を過ぎ、この天候のせいもあるのか、道路を走る車も少なく、すれ違うのは駅に向かうタクシーばかり。
時折雪の混じった向かい風が吹くたびに、寒さに身を震わせ、コートの襟を立て、首に巻いたマフラーで口元を覆う。
駅から離れれば離れるほど、積もる雪は厚みを増し、停留所2駅分を歩いたころには、革靴の半分以上が雪に埋まりながらの歩行になり、どうにも歩きづらく、足のつま先の感覚も徐々になくなっていった。