琥珀の奇蹟-MEN-
緩い坂道を上り詰めたところで、メインのバス通りから一本左に外れ、住宅街に入る。
通常ははバスを使ってしまうので実際に通ったことはないが、おそらく地形的には近道になるはず。
大通りに比べ、街灯の数が極端に少なくなり、当然雪も深くなるが、距離的には確実にショートカットになり、帰宅までの大幅な時間短縮にはなる。
深夜のこの時間帯。
閑静な住宅街は明かりの消えている家が多く、クリスマスの飾りを施した家も、この天候でなのか、既に電飾の明かりも消灯している様子。
更にこの辺りは、抜け道に使用されないようにと、すべての路地が行き止まりのような造りになっているようで、関係のない車両が入ってくる気配もなく、事実この住宅街に足を踏み入れてから、一台の車ともすれ違っていない。
何だか、気味が悪いくらいの静けさだ。
シンシンと降り続く雪と、それをギュギュと踏む自分の足音だけが、かすかに聞こえるだけ。
肉体的な疲れと、言いようのない孤独感が押し寄せる。
もう後数十メートル先を右に曲がれば、自宅近くの広い通りに出る…というところで、前方のとある家の前に、人影が見えた。
一瞬、見てはいけないものを見てしまったのかとドキリとしたが、近づくにつれ、その輪郭がはっきりとしてきて、生身の人間であることが明らかになる。