琥珀の奇蹟-MEN-

小柄で上品な感じの、かなりご高齢の女性のようで、紅色の傘をさして何かを待っている様子。

不意にライトの光が差し、背後から車の気配がして反射的に左に避けると、すぐ横を濃茶のタクシーが通り過ぎ、その老女の前で停車。

どうやら、このご婦人が呼んだ、迎車タクシーのようだ。

後部座席のドアが開き、ゆっくりとした足取りで、乗車するそのすぐ横を通り過ぎる。

『東永澤病院までお願いします』

老女が行き先を運転手に告げる声が聞こえると、思わず立ち止まり、次の瞬間、閉まりかけた車のドアをつかんでいた。

『あのっ』

驚いた様子の、老女の顔。

『突然すみません!私も、同乗させてもらえませんか?』

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