琥珀の奇蹟-MEN-
『小暮さん、リスト当たってもらえたかな?』
デスクに戻ると、営業のサポートをしてくれる、女性スタッフに声をかける。
『一応全部あたってみたんですけど、なかなかいい回答がなく…それに、この時間になると既に担当者がいない事業所も多くて…』
『日が悪かったな』
『どうしましょう?もう少し、範囲広げてみますか?念のため、関東近郊のリストは上げておきましたが』
『そうだな…俺も一件ダメ元で当たってみるが、小暮さんの方では連絡のついてない事業所にもう一度聞いてもらって、ダメなら都内に近いとこから当たってみようか』
『はい、やってみます』
小暮さんは、細い銀縁の眼鏡を抑えると、残っていた同僚とすぐに作業に取り掛かる。
彼女は白石と同期で、まだ20代半ばのはずだけれど、優秀な女性スタッフの一人。
外見は派手さもなく目立つタイプではないのだけど、仕事は早く的確で、こちらの指示がなくとも先を読んで行動してくれるのは、とてもありがたかった。
気付けば今日残っている女性社員は、彼女一人。
不意に、もしかしたら彼女も今日、予定があったりしたのだろうか…?だったら、悪かったな…と、自分の気遣いの足りなさに気づくと同時に、自身も今日、大事な予定があったことを思い出した。