琥珀の奇蹟-MEN-
隆弘⑦
『走り出しますね』
運転手が、ハザードを解除して車を発車させる。
微かにチェーンのカタカタという振動を感じながら、車は雪道を走り出した。
『お寒くないですか?』
『あ、いえ、大丈夫です』
『運転手さん、温度をもう少し高くして差し上げてください』
老女のお願いに、運転手が車内の温度設定を上げてくれる。
実際、身体は冷え切っていたが、外気に比べたら車内は天国のような暖かさだった。
『あの…本当にありがとうございます、着いたらもちろん、代金は自分が全額支払いますので…』
『そんなことは気になさらなくてもいいのですよ』
『いや、きちんと支払わせてください』
いきなり声をかけられ、車に同乗させていただいただけでも充分ありがたいのだから、これ以上甘えるわけには行かない。
ちらりと隣の老女を見ると、透き通るような白髪の髪はキチリと一つ結い、上下は紺色のツーピースに濃灰色のカーディガン、手元には乗車するときに脱いだコートとやけに大きめの鞄を携えている。