琥珀の奇蹟-MEN-
よく考えたらこの時間帯に病院など、そんな緊急時にしか、行くこともないだろう。
『すみません、こんな時に…』
『あらあら、こちらこそごめんなさいね、今から恋人に会いに行くという方に、縁起が悪かったかしらね』
『いえ、そんなことは…』
正直、何と言ったらいいのか分からなくなり、続く言葉が出てこない。
何となく気まずい空気が流れ、つい押し黙ってしまい、その空気に耐えきれず、無意識に窓の外を眺める。
見える風景は、相変わらずモノトーン一色の雪景色。
ただ、先ほどの住宅街と違い、大きな通りを走っているはずなのに、何故か不思議とすれ違う人も車も一台も見当たらない。
この時間の、この天候のせいだろうか…?
静かな車内には、車載のラジオからどこかの民族音楽のような曲が、小さく流れていた。
『ふふふ…なんか不思議ねぇ』
『?』
唐突に隣に座る老女が、可笑しいそうに笑いだす。
『ああ、ごめんなさい…気でも触れたのかと思われてしまうわね』
確かに、老女の置かれた状況を考えると、そう見えなくもないが、本人は至って冷静なようで、心の内側はどうにも読み切れない。