琥珀の奇蹟-MEN-
そういえば、先ほどの老女の名前も聞いていないことに気づき、一応名前だけでも聞いておこうとタクシーを振り返る。
『すみません、さっきの……え!?』
振り返った先には、たった今、降りたはずのタクシーの姿が、跡形もなく消えていた。
直ぐに進行方向の先を見るも、目の前の広い道路は2車線真っすぐに伸び、100メートルほど先に見える次の信号まで、左右曲がるところはないにも関わらず、その間タクシーの姿など、どこにもなかった。
『消えた…?まさか…』
車から降りて、後ろを振り向くまで、ほんの一瞬しかない。
しかも運転手の声はしたが、ドアが閉まる音など聞こえなかったはず。
”パッパー!!”
クラクションの音に驚き、何かが、”パチン”とはじけたような感じがした。
今の警告音で、思いのほか車道近くまで出ていたことに気付き、2,3歩下がってから、もう一度丁寧に辺りを見回しす。
そこはなぜか、タクシーの車窓から見た景色とは明らかに違い、台数は多くはないものの適度に車や人が行き交い、通り沿いにあるいくつかの家のイルミネーションも、まだ煌々と点いている家もある。
さっき見たモノトーンの景色は、いったい何だったんだろう?