琥珀の奇蹟-MEN-
頭の中に広がっていた靄が完全に晴れる感覚と同時に、タクシーに乗車する前の冷え切った身体が一気に戻ってきた。
つい数分前まで、暖かな車内にいたとは思えないほどの寒さと、足先の冷たさ。
何気なく、腕時計で時刻を確認し、更に驚愕する事実に目を疑った。
『嘘だろ…』
時刻は、午後11時3分。
これでは琥珀堂を出た時間から大して時間が経過していないことになる。
もしかしたら時計が壊れていて、ただ動いていないだけなのかもしれない…と思いたち、念のために携帯を取り出し、時刻を確認するも、やはり間違い無い。
今いる場所も確認するも、ここは紛れもなく柚希の住む町で、琥珀堂からなら、車であればどんなに早くても30分はかかる距離。
瞬間移動?時間の遡り?
有り得ない現象に、しばし立ち尽くす。
『琥珀の…力?』
脳裏に、マスターの言葉が浮かび、思わず呟いた。