琥珀の奇蹟-MEN-
『…店、出た後ではあるのか?』
『あ~うん、何度か駅までの道、聞かれたことあったかな?でもよく考えたら、おかしいいのよね、だってあそこから駅とかって、もう駅舎見えてるじゃない?しかも、それぐらいで、”お礼にお茶でも”って、言われてもねえ…って、どうしたの?隆弘?』
思わず、頭を抱えた俺に、柚希の心配そうな声音。
『何でもない…で?お前、何て答えてるんだ?』
『え?答えるも何も、そもそもたった今、琥珀堂でお茶したとこだから…って、断るよ?』
”食事だったら行くのかよッ”と、突っ込みたいのを我慢する。
本人に全く自覚がないのが幸いしているのか、むしろ勇気を出して誘ったであろう男の方に、憐みの情さえ湧いてくる。
いや、悪いのは、柚希を一人にしている自分なのだとわかっているが、柚希の危機感の無さには、呆れかえった。
『柚希、これからは俺が行くまで、店出るなよ』
『…?うん?』
『なるべく待たせないようにする』
『うん、期待はしないけどね』
多分、その意味など全くわかってはいない様子の柚希は、それでも嬉しそうに微笑み、残っていたカップの中身を飲み干した。