琥珀の奇蹟-MEN-
案の定、目の前を歩く柚希が、呑気に歩を進めてすぐ滑りそうになり、慌てて手を差し伸べる。
『おい大丈夫か?』
『ごめん、助かった…』
掴んだ腕から手を離すと、その手で柚希の手を取り、歩き出す。
『え?ちょ、ちょっと、隆弘、良いよ一人で歩けるし』
『別に問題ないだろ』
『いや、私達もう学生じゃないし…さすがに恥ずかしい…』
『気にすんな、駅までの間だ』
柚希のマンションから駅までは5分程度。
大した距離じゃない。
恥ずかしがる柚希をよそに、ただ手を繋ぐという行為に、意外にも浮かれている自分に驚く。
なんてことなない平日の朝。
出勤時に、柚希の手を握っている自分。
おそらく2時間先には互いに別々の場所で、仕事に就いているだろうにと思うと、何だか不思議な気分がして可笑しかった。