琥珀の奇蹟-MEN-
コートを手に、白石の待つ車庫に向かおうとして、ふと足を止めた。
『あ、小暮さん』
『はい?』
『今日は悪かったね、せっかくのクリスマスなのに…』
『いえ、別に。私は特に予定もありませんし』
『そう…か』
気遣ったつもりが、逆にマズイことを言ってしまったのかもしれない。
小暮さんの抑揚のない語り口に、セクハラやパワハラとか言われそうで、一瞬身構えてしまう。
『それに、今日は師走のただの平日なだけですから』
『ハハ…確かに、そうだよね』
何となく、居た堪れなくなり、早々に『じゃお疲れ様』と、執務室を後にする。
冷たい廊下を足早に歩きながら、今聞いた小暮さんのセリフに、さっき佐藤も同じようなこと言ってたな…と気がつくと、思わず一人でくすりと笑ってしまった。
あの二人、引き合わせたら面白いかもしれない。
そんな想像を巡らせながら、1階に降り、営業車のある車庫への出入口から外に出る。
『寒ッ』
外気の冷たさに思わず声に出し、空を見上げると、何やら白く小さな粉雪がちらちらと降りてくる。
どうりで寒いわけだ…。