白衣の聖人による愛深き教示
「後で詳しく」とぎらぎらした表情で言った理子先輩は、午後からの来客が増える前に昼食をとりに行った。
頬をつねってもらったおかげで、それからほどなくしてごった返した窓口業務は、気を抜かずに取り掛かることができた。
それに、やっぱりさっきの出来事は現実味がなかったからなのかもしれない。
15時、銀行入口のシャッターは閉められ、窓口は締めの作業に入る。
今日1日で溜まった伝票を揃えながら、隣の席の理子先輩が声をかけてきた。
「おめでとう、愛結。よかったね、念願叶って」
キャッシャーの中で現金が計数されている音をぼんやりと聞いていた私は、先輩の言葉にようやく昼間の出来事をゆっくり反芻することが出来た。
「ま、まだ、全然実感なくて……でもあの先生が、私となんて本当に……」
「冗談でOKするような人じゃないよ、絶対」
「そうなんですかね……」
「じゃあ、たしかめてきな。先生帰る前に」
「え、大丈夫です! まだここ締めないといけないですし。それに……」
ごくりと唾を飲み込んで、制服のポケットからスマホを取り出す。
夢じゃなかったら、ここに……久保泉先生の番号が登録されているはずだ。