白衣の聖人による愛深き教示
「先生……」

 噴き出すうれしさと感動が入り混じって喉に詰まる。
 目元でふわりと微笑まれ、眼福すぎる顔面の威力に熱くなっていた胸が盛大に砲撃された。
 そんな私の心情など知りもしない先生は、そのまま地下駐車場へと向かう。
 撃ち抜かれ機能しない体で立ち尽くしたまま、ただ彼を見送ってしまった。
 追いかけるなんて考えは少しもなかった。
 微笑んでもらっただけで十分だったから。
 それなのに、立ち尽くす私のバッグの中で、スマホが唐突に震えた。
 はたとしてバッグから取り出す。
 まだ指の先まで熱さを感じながら蝶が型押しされたスマホカバーを開くと、震える画面に表示されていたのは、今日登録したばかりの先生の名前だった。

「はっ、はい! 乙成です!」
『仕事終わりなのに、元気ですね』

 着信に応答すると、ふふ、と穏やかに笑う声が鼓膜を震わせ、首筋を舐められたようにぞくりとした。
< 16 / 19 >

この作品をシェア

pagetop