白衣の聖人による愛深き教示
 どギツい香水の残り香に鼻を歪めながら、嵐の去った廊下に立ち尽くす。
 いつものように、真っ白の扉の前で深呼吸をして、軽く作った拳でノックをした。

「はーい、どうぞー」

 中から聞こえた、色気ムンムンの甘ったるいアルトの女声に緊張が高まる。
 男の人であれば耳元で囁かれたいであろう声に許可をもらい、真っ白の引き戸をそろそろと開けた。
 途端に私を取り囲むように流れてくる消毒液の澄んだ匂いは、廊下に充満していた女性達の名残を浄化してくれるようだ。
 「失礼します」と足を踏み入れたそこは、学校の保健室を思わせる部屋て、右手にはカーテンを開け放たれたベッドが三台。そこに対面する左奥には、雑多なファイルが並んだデスクが壁に向いて鎮座する。
 そして、まさにそこに置かれた椅子に座る彼が、白衣の裾から持て余すほどの長い脚を組んで私に向き直ってきた。
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