白衣の聖人による愛深き教示

 そして、私も例に漏れず、雑貨屋で選びに選び抜いた包装紙でラッピングした箱を胸に抱き、我こそはとここへやって来た。
 一歩一歩彼へ近づいていく足が、緊張で今にもポッキリと折れてしまいそう。
 自分の心までも一緒に折ってしまわないよう、慎重に歩を進める。

「久保泉先生!」
「はい」

 ほんの数十センチ先に、聖人君子のような微笑みを抱く彼が私に応えてくれる。
 自分の心臓の音が大きすぎて、耳鳴りでもしているような気がするけれど、彼の穏やかな声ははっきりと耳に届いた。
 ごくりと生唾を飲み込み、今この瞬間のためだけに生きてきたような一言を告げるべく、深呼吸をしてから口を開いた。

「好きです! 結婚してくださいっ!」

 近くにいるはずなのに少し遠くで、あらあらと楽しげに笑った冴子さんの声が聞こえる。
 直角に腰を折って下げた頭の前で、抱えていたチョコレート色の紙バッグを両手で差し出した。
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