白衣の聖人による愛深き教示

 目が合うだけで、どきんと心臓の音が弾けるのはいつものこと。
 だけど、目の前で起きた出来事を理解することができなくて、はて、と首をかしげてしまった。

「やっぱり、可愛らしい方ですね」
「……え? へ?」

 くすくすと楽しげに目を細める久保泉先生が、今度は私にちゃんとわかるようにはっきりと言ってくれた。

「いいですよ、結婚。しましょうか、乙成愛結さん?」
「えっ!? ええ!? いっ、いいんですか!?」

 ゆっくりと話してくれたおかげで、事態は飲み込めたものの、まさかの答えに頭はパニックだ。

「わ、私、まだ先生とお付き合いすらしていないのに……っ」

 そうなのだ。
 こんなふうに逆プロポーズをしたけれど、私と久保泉先生は決して恋仲にあったわけではない。
 私の気持ちすらこれまでに伝えたことはなく、今のが人生で初めての、一世一代の告白だったのに。

「じゃあ、やっぱりなかったことにしますか? 今の」

 表情は少しも変えずに、久保泉先生が返事を取り下げようとする。

「だ、ダメですっ! 結婚してください! お願いします!」
「はい、いいですよ」

 ふふ、とやわらかく笑いをこぼす先生に、胸はきゅうきゅうと音を立てた。


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