それでも、幸運の女神は微笑む

「わたくしを騙しましたの?」

***



『旭』

『旭』

優しくて温かなふたつの声が、私を呼ぶ。


ああ、お母さんとお父さんだ。


ふわりと頭を撫でられて、なんだか泣きたくなった。



『どうしたの?』

『拾い食いでもしたか?』


心配そうな声と茶化すような声が響いた。

菜乃花と祐樹だ。



大丈夫だよ。ありがとう。

拾い食いとかするわけないじゃん。馬鹿にしてる?


楽しげな笑い声が弾む。





『なになに?なんか楽しいことあった?』

『教えてよ旭ー』

『あれ?戸田珍しく鳥の糞付いてない!』

『明日槍でもふるんじゃ・・・』

『いやいや、着替えてきただけだろ』


楽しいこと?

いっぱいあるよ!教えるからちょっと待って!

男子に鳥の糞付いてるのがデフォルトじゃないって教えないとだから!!


頑張れ旭ーという声や戸田の不運は神がかってるからなぁなんて声がして。

唸る私にみんなが笑って、つられて私も笑ってしまう。


明るくて楽しい、クラスメート達。




美希は受験勉強頑張ってるかな。

雛はダラけてそう。

田中君はどうだろう。あそこ偏差値高いよね。

鈴木は絶対予備校でしごかれてる!


思い浮かぶ顔に思いを馳せて、笑みがこぼれる。





・・・会いたいなぁ。みんなに。











『あい、た・・・いたたたたっ』


腹部の鈍痛を感じつつ、私は温かな夢から覚めた。



そうして、すぐさま泣きたくなった。





私、牢屋らしき薄暗い鉄格子の中にいたので。





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