それでも、幸運の女神は微笑む
えーっと、ちょぉっと落ち着こうか私。

手始めに深呼吸。


ハイ!

『すうーーーーーゲホッゴホッ』



埃っぽい空気にむせた私、ドンマイ!

お腹の痛みと埃に涙目になりつつ、辺りを見渡した私は大きな鼠と目が合った。



その鼠は、並々でない貫禄があった。

でっぷりとした体にふてぶてしい表情。

灰色の毛並みは野生的にボサボサとしており、気だるげな黒い瞳は半眼だった。


「ヂュ」

声さえも低く濁っていた。



ボスだ。
ボス鼠様だ。


・・・なんで私は牢屋にいて、ボス鼠様とにらめっこしているんだろう。




目を逸らしたらいけないという空気がビシバシする。ツライ。



そうしてボス鼠様と目を合わせることしばし。


その時間は、数秒にも数十分にも思えた。

あ、でも1時間以上はないと思う。うん。




ボス鼠様が目を糸のように細くして、一声鳴いた。


「ヂュ」



私から目を逸らして、ドテドテとどこかへ去っていく。




『か、勝った・・・?』


しかし、仄かな喜びは一瞬だった。

私、牢屋の中にいるっていう状況は変わらないじゃーん!



『えー?なんで?なんで牢屋?私何かしたっけ?何もしてないっていうか何もできないよね?おかしくない?いやいや待て待て私ちょっと落ち着けハイ、深呼吸ー、すうーーーーーゲホッゴホッ』


むせた。

人間は学習する生き物だって聞いたことがあるから、もしかして私は人間じゃないのかもしれない。

それでもしかしてもしかしなくてもボス鼠が人間でボス人間で私は鼠モブ鼠で鼠だからここにいてそれであれでこれで・・・あああああああ!!!!




ゴンッ!


灰色の石造りの床に思い切り額をぶつけて、私はやっとこ落ち着いた。

・・・おでこ、ヒリヒリする。




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