それでも、幸運の女神は微笑む
胸が苦しい。

痛いほどまざまざと実感させられる。


ここは、日本じゃない。


私より幼い少年少女が、優しい人が、朗らかな人が、拷問なんて言葉をどうとも思わない。

きっとあっちの世界にだって、そんな人はいただろう。そんな世界だってあっただろう。



だけど、私は、私の世界は。


滅多に人死になんて見ない世界。
守られた安全な世界。

戦争なんて、拷問なんて、遠い遠い世界。





「ラギア、アイナ」


ベットの傍で並んで立つ2人の手を、片方ずつ握りしめた。

ぎゅっと握った2人の手は、温かくて。

泣きたくなった。


温かいのだ。本当に。
私と、変わらない。




怒るべきなのだろうか。

2人が怒って当然だと言うのだからそうなんだろう。


だけど怒りはやってこない。
ただただ、胸が痛かった。




〈アサヒ?〉

「アサヒ?」



手を握って黙り込む私を2人が呼ぶ。

僅かに異なるアクセントがやけに耳に残った。



2人を真っ直ぐと見上げた。

赤と紫の瞳も、コバルトブルーの瞳も、惚れ惚れするほど美しく澄んでいた。


くしゃりと、顔が歪んだ。



部外者が勝手に痛みを感じるのは、おこがましいんだろう。

きっと私は怒るのが当然で、そうするべきだ。


廃人になったかもしれない。そう思うと恐怖が沸き起こる。

拷問されたかもしれない。そう思うと、鳥肌が立つ。


理不尽だと思う。

だけどそれは、私よりも若い2人が平然とそれを行おうとしたこともだ。

理不尽だ。私にも、2人にも。




––––––ここの人達は、優しいだけではないんだろう。


だけど、恐ろしいだけでもないのだ。

優しさがないわけでも、温かさがないわけでもない。


それを、私は知っている。



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