それでも、幸運の女神は微笑む
ラギアと繋いでいるのとは違う方の手首を、握られた。

視線で辿った先には、会いたくて会いたくなかった“彼”がいた。






「夕日・・・」

『奇遇だね、旭。元気?』


夜の闇のような黒い髪と瞳。

何事もなかったかのように、夕日は親しげに微笑んでいた。


なんで。なんで。なんで!




『なんで猪なんて放ったの!なんでキスしたの!なんでいるの!なんでっ・・・』


息が詰まった。なんでなんでなんで。


『私の名前、上手く言うの・・・』



前は“アサヒ”だったのに、なんで今は“旭”だなんて。

おかしい。おかしいよ!





「アサヒ、誰?」


ラギアがぐっと手を引いて問いかけてくれたおかげで、私はハッと正気になった。



「ラギア!これ、夕日!」

『“これ”って酷いなぁ』

『私の言語能力に喧嘩売ってる?』

『あ、わざとじゃないんだ』

『私は無実だ!』

「・・・アサヒ?」


ハッ!ごめんラギア!



「夕日って、チェナティッド人の夕日?」

「ヴん!会う、前、わたし、人!」


駄目だ脳がカラカラ空回りしている!

上手く読み取ってラギア!



「アサヒが前会ったチェナティッド人か・・・」


上手く読み取ってくれてありがとうラギア!

と、心の中で感謝を述べていると、思いの外強い力で引っ張られた。

そうして私はラギアの背に隠れるような形になった。なぜだ。




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