それでも、幸運の女神は微笑む
後ろでドアの閉まる音がしたのが聞こえた。


冷たい石造りの廊下は真っ直ぐ奥へと続いているだけで分かれ道はない。

けれどさっきまでいた棟よりも廊下は短い。

そういえばこっちの棟の方が随分とこぢんまりとしていた。


等間隔でドアが付いている以外は特に装飾もなく、同じ景色がずっと続いている。

ムムが持っている燭台の蝋燭の炎だけが、辺りを薄ぼんやりと照らしていた。



だけど。


そんなどこか裏寂れた感じがする建物の中は、楽しげな騒めきで満ちていた。






「え、何それ可愛い!どうやったの?」

「これがあーでこーでそれで・・・」

「ごめん全然わかんない!!!」

「聞いて聞いて!今日キース様が私に笑いかけてくださって!」

「何言ってるのよ!私に笑いかけてくださったのよ!」

「え?あれって愛し子様に笑いかけてたんじゃないの?」

「「あ、そうかも」」

「ヤバイ太った絶対太ったぁぁぁ!!!」

「だからつまみ食いはやめなってあれほど言ってやったのに」

「だってお腹減るじゃんご飯美味しいじゃぁぁぁん!!!」



そこかしこの部屋から聞こえてくる女性の声。


パチパチと目を瞬いていると、ムムが手で耳を塞ぐ。

アサヒ、と呼ばれたので真似してみれば、うんと頷いてくれた。

おお、合ってた。



ちょっと嬉しくなっていると、ムムがすうっと大きく息を吸った音がした。



「連絡ーーーー!!!
全員廊下に出て整列っ!」





キーンと響く大声に目を丸くする。

ムムさん、その声どっから出てるの?!




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