それでも、幸運の女神は微笑む
『・・・ユウヒ?』

『!!
そう!祖父はそう呼んでた!みんなはユーヒと呼んでいたけれど』



そう言って彼は、少年のように笑った。

顔をくしゃくしゃにした屈託のない笑顔。


この世界でそんな風に笑ってくれた人は、初めてだ。



胸がキュウッとした。




『ユウヒ、とは言いづらかったんだと思う。
ニホンゴも、僕しか上手く言えなかったし』

『そうなの?』

『うん。意味は伝わるんだけど、どうもイントネーションが不自然で』

『ああ』



確かに、ここの人たちが言うアサヒは、私が言う旭と微妙に違う。


小さいけれど確かな違い。

それがなんだかおかしくて、悲しかった。



『ユウヒは、あ、ユウヒさんの方がいいかな』

『ユウヒで良いよ、僕もアサヒと呼びたいし』

『ありがとう』


笑みがこぼれた。



顔を見せてくれたとはいえ、まだ黒いローブで体の線はわからないし。

名前を教えてくれたとはいえ、まだ彼がどうしてここにいるのかはわからない。


それでも、私はユウヒといることが心地良かった。

また、あの少年みたいな笑顔が見たかった。




『ユウヒ』

『うん?』

『お祖父さんは、ユウヒの名前がどんな意味かとか、言ってた?』

『ああ。
祖父さんは夕方の眩しい光のことだと言っていた』


夕方の眩しい光・・・夕日。

そうか。ユウヒは夕日なんだ。


それはすとんと私の中に落ちた。


夜の色の髪と瞳を持ち、どこまでも眩しく明るく笑う。

夜と昼の淡いの時の光。





< 88 / 153 >

この作品をシェア

pagetop