それでも、幸運の女神は微笑む
ぽつぽつと事の経緯を伝えて、仕方がないのだと笑えば、ぎゅっと柔らかな胸に抱き込まれた。


「シルヴィア、様・・・?」

「馬鹿なことを言ってはいけないわ、アイナ。
賤しいのはあなたじゃない。あちらの方よ」

「でも、わたくしの母は、庶民で、だから」

「前にも言ったでしょう?忘れてしまったの?」




抱きしめていた両手が、わたくしの両頬を包んだ。

温かな、手だった。



「いいこと?わたくし達王侯貴族にとって、庶民は守るべき大切な人たちよ。
その血を賤しいと貶めるのは、ただの愚か者よ」


深い緑の瞳は、優しくきらめいて。

真っ直ぐな芯をもっていた。



「・・・はい」


なんて綺麗なんだろうと思いながら、わたくしは頷いた。

わたくしの頭を、ジーク兄様が撫でて、微笑む。



「アイナは可愛い私の妹だ」

「・・・ジーク兄様は、とてもすてきなお兄様です」


真っ直ぐな言葉に照れながら、緩んだ口元をそのままに、上を見上げて言う。

ジーク兄様は、へにょりと目尻を下げて、ひどく嬉しそうに笑った。



「アイナ、可愛い、本当、可愛い」

「しっかりなさいなジーク。気持ちが悪いわよ」

「母上は容赦ないなぁ」




おどけたように言って肩をすくめるジーク兄様に、ふふっと笑みがこぼれた。

つられるようにシルヴィア様も笑い、我が意を得たりとばかりにジーク兄様がニッと笑った。



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