黙ってギュッと抱きしめて
「結婚したいなら、喜んでするよ。」
「えっ…ええ!?遥何言って…」
「だって俺、結婚するとしたら翼しかいないでしょ。」
「うっ…」

 さらりと言われる言葉が耳に残る。翼の顔は熱い。顔が赤いのは指摘されなくたってわかる。

「ま、まだないけどね、指輪も。これも正式なプロポーズってわけじゃないし。」
「いやいや…これ、充分プロポーズだよ…!」
「真っ赤だし。」

 そっと翼の頬に触れた遥の手。ひんやりとしてて気持ちいいなんて思ってしまうのは、遥の言葉に動揺して頬の温度を上げてしまったからだ。

「翼。」
「ひゃい!」
「なにその返事。おまけにさぁ…そんな顔してたら俺に何されても文句言えないよ?そんな緊張しないでよ。別にとって食おうなんて思ってないし。でも…」

 翼の頬を優しく撫でるその手が、1年半かけてもっと好きになった。顔の赤さが引いていないことはわかっていても、翼は必死で顔を上げて遥を見つめた。

「翼がそういうこと、俺とって考えてくれてたのは結構嬉しい、かな。」

 この言葉は卑怯だ。絶対にずるいと翼は思う。だからお返しだ。

「だ、だって…結婚するなら、遥じゃないとありえないでしょ?」
「うん。ありえない。」
「うわ!」

 そのまま額がぶつかって、頬にあったはずの手は頭の上に乗っていて、わしゃわしゃと髪を撫でられる。そしてぎゅっと抱きしめられた。

「…プロポーズの言葉とか考えてなかったけど、ずっと一緒にいたいって気持ちは、ちゃんとあるから。伝わってる?」

 遥の心臓に耳を当てるとドクンと速い鼓動が聞こえてくる。だから伝わる。同じ気持ちである、と。

「つた…わってるよ…」
「指輪はちょっと待ってな。」
「い、一緒に見に行きたい!」
「え、翼はそれでいいの?サプライズとかじゃなくて?」

 緩まる腕の力。顔を上げれば自然と視線は重なった。

「だ、だって、一生モノだもん。遥にも自分にも似合うものを買いたいじゃん。一緒に選びたいもん。」
「じゃあ今度の休みの日、行こっか。」
「うん!」

 2人の左手の薬指に、2人が選んだ指輪が光るのは、あと数ヶ月後の話。

fin
< 23 / 29 >

この作品をシェア

pagetop