黙ってギュッと抱きしめて
指輪の在処
「…珍しいよね、遥が風邪ひくのって。」
「…ほんとに。何をどう間違ったんだろ…。」
「まぁでも、遠慮なく甘えてね!」
「うん。そーする。」

 火照った顔で、息も苦しそうな遥の姿を最後に見たのはいつだろうというくらい、遥はめったに体調を崩さない。むしろ翼の方が体調は崩しやすい。それでも、遥と付き合うようになってからはかなり回数は減ったのだけれども。というわけで、遥に看病されてばかりの身としては、ここで感謝を返したいところである。
 とはいえ、遥の部屋は片付いているし、特にすることもない。

「…食欲ある?」
「あんまり。」
「病院は昨日行ったって言ってたね。」
「うん。薬はテーブルの上にある。」
「そっか。朝は食べて、薬は飲んだの?」
「うん。トースト1枚だけだけど。」
「何も食べてないよりマシだよ。そっかぁ、じゃあ私、せっかく意気込んできたのにやることないなぁ。部屋も綺麗だし。あ、洗濯?」
「…洗濯はやってくれたら嬉しい。久しぶりに晴れたし。」
「わかった。じゃあ遥はゆっくり寝ててね。」

 洗濯機を回しに、洗面所へ向かう。洗剤がどこにあるのかもわかるくらいには遥の家に来るようになった。

「っと、ここでしょ。」

 洗濯機の中は確かに少し溜まっていた。遥は割と几帳面なので、コンスタントに家事をするタイプだ。体調も天気も悪かったのだろう。
 一応ズボンやワイシャツのポケットの中は確認し(遥のことなので、もちろんティッシュなんか入ってはいない)、洗濯機を回した。
 このまま戻ると音を立ててしまいそうなので、風呂も軽く掃除することにした。そして風呂掃除を終えた頃には洗濯機も回し終わり、一通り干したところで遥のもとに戻る。すると遥は静かな寝息を立てて眠っていた。
 翼はそっと、遥のベッドの横に膝をついた。そっと手を伸ばし、触れたその頬はいつもより熱くて、こめかみにはうっすらと汗が光る。

「…起きたら着替えかなぁ。お風呂は入るのきつそう。」

 翼は立ち上がり、遥の着替えを用意することにした。
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