黙ってギュッと抱きしめて
 少し顔を冷まして、遥のもとに戻ると着替えはすっかり済んでいた。ネックレスに通った指輪が、遥の胸元で光っている。

「脱いだやつちょうだい。」
「ん。」
「洗濯機に入れてきちゃうね。何か食べれそう?」
「…まだいい。」
「飲み物だけは飲んでね。ポカリ作ってあるから。」
「うん。」

 遥から着ていたものを受け取り、洗濯機に入れる。冷蔵庫に入れておいたポカリをコップに注いで、遥のもとへと持っていく。

「はい。」
「ありがとう。」

 翼はベッドに腰掛ける。遥は一気に飲み干してしまった。あれだけ汗をかけば当然ともいえる。

「もっと飲む?」
「大丈夫。」

 遥からコップを受け取り、そっとテーブルに置いた。二人の間に沈黙が落ちる。

「…熱いのは熱いけど、ちょっと顔色はよくなったかな。」
「ん。」

 遥の頬に手を添えて、翼はそう言った。するとその手に遥が頬を寄せてくる。

「…これ、夢じゃないんだもんなぁ。」
「なんで夢なの?」
「…だってさ、どれだけ長い時間、翼に片想いしてたと思ってんの。」
「…それは、気付かなくてごめんって…。」
「いや、俺のせいでもあるから翼のこと怒ってるとかじゃないけど、…翼に看病してもらえる日がくるなんてさ。」
「…私は何度もあるのにね。ごめんね、いつも。」
「したくてしてることだから、いいんだよ。」

 遥の手が伸びてくる。翼の頭を優しく撫でるその手は、いつもと同じだ。
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