黙ってギュッと抱きしめて
 そしてその手は翼の左手の薬指に触れる。

「俺に会うとき、いつもこれしててくれるのも、結構ちゃんと嬉しいから。」
「…遥はしないんだなぁって思ってたら、ここにあった。」

 翼はネックレスに指を絡めて、遥を見つめた。

「…なんでネックレスなの?」
「…指に何かついてるのが意外と苦手って、初めて知った。」
「え?」
「いままで指輪とか、はめたことがなかった。」
「…待って、彼女、いたことあったよね。」
「あったけど。…失礼な話だけど、それって翼を振り切るための付き合いだったから…。」
「…何だか各種方面にごめんなさいなんだけど…。」
「それは、普通に俺のせいだから、翼がそんな顔する必要ないんだよ。」

 不器用に想いを伝えず、ずるずると幼馴染として過ごした過去は、どちらのせいでもある。

「あと、約束したじゃん。プロポーズするまでは、職場にはつけていかないって。」

 二人で決めた、約束だった。正式に結婚する、と決めるまでは周りに話さない。翼もそうしたかった。結婚するという約束は、急ぐものでもないと思っている。それでも二人でお揃いの指輪が欲しいという話になり、二人で指輪を決めた。だからこそ、指輪の使い方はある意味自由だった。翼は、遥と会うときは必ずつけた。誰に見せびらかしたいわけでもなく、ただ、遥との初めてのお揃いだったから、遥に一番見てほしかった。

「…でもさ、それこそ肌身離さず持っていたくて。そしたらこれに落ち着いた。」
「…遥も大事にしてくれてたんだ…。」
「あ、指につけてなかったから?」
「…うん。私だけ嬉しかったらどうしようかなぁって、実はちょっと思ってた。」
「…そんなことあるわけないじゃん。」

 遥の腕が翼をぎゅっと抱きしめた。いつもより熱い身体のせいで、翼の方も熱の上がり方が早い。
< 28 / 29 >

この作品をシェア

pagetop