チョコミントの奇跡
一瞬パニックになったけれど、私も慌ててその後に続く。
「え? マジか…? ご、ごめんなさい!」
確かにその中身を見たら、どんなに冷静な人間でもこういう反応になってしまうだろう。
それも今日がバレンタインデーと知っている人であれば、なおさら…
私もあまりの衝撃に口に手を当て大きくため息をついた。
簡易的な箱は蓋が開き、丸く作ったはずのチョコレートケーキは原型すらない。
ただ、誰かにあげるはずの手作りのチョコレートケーキだったという事実だけを、そのグチャグチャのケーキが物語っていた。
「あ… いいんです…」
私はそう言うしかなかった。
朝の通勤時間で、私もこの人だって時間がないはずだ。
私は早くこの男の人を解放してあげたかった。
っていうか、恥ずかしいから早くいなくなって…
私がしゃがんでその紙袋を拾っていると、その男の人までしゃがんできた。
「あ、あの、名刺もらえませんか…?」