チョコミントの奇跡



「め、名刺??」


私はその男の人が腕時計を何度も見るのが気になった。


「あ、名刺って、私持ってなくて…
あの、本当に大丈夫ですから、気になさらずに会社へ行って下さい」


すると、その男の人は自分の名刺を私のバックに入れた。


「本当に申し訳ないって思ってる…
何か力になれないかな…

あ、名刺を持ってないなら、働いている場所さえ教えてもらったら」


その男の人は本当に時間がないらしく時計を見ながら、でもまだ一緒にしゃがんでいる。
私なんかのせいで会社を遅刻するなんてそっちの方が申し訳ないと思い、私は小さな声で会社の名前を言った。


「了解、じゃ」


その男の人はそんな不思議な言葉を残し、早歩きで私の前からいなくなった。
その人がいなくなった途端、激しい虚しさが私を襲ってくる。

祐樹に会えるたった一つの口実を、今、この場で失くしてしまった。
ケーキ作りが大好きな私の事をよく知っている祐樹に、バレンタインデーにケーキを作って持って行く事は、後にも先にも一番自然な流れだったのに…



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