駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
ハズレなんだけどな…
鞄を置いたスチールの背に手をかけた男性だが、私は拒絶の意思表示のように鞄を動かさなかった。
それでも諦めない男性は一つ挟んで隣のスチールに座り、話しかけてくる。
空気の読めない男の話を聞き流して誠と話をしていたら、さすがに気がついたらしく諦めてどこかへ行ってくれる。
美味しかった料理も味わって食べれなかった。
「理沙、俺、もう上がりなんだけど一緒に飲んでいい?」
「彼の愚痴聞いてくれるならいいよ」
「…着替えてくるから待ってて…その間変なのに捕まるなよ」
「りょーかい」
苦笑いをして奥へ消えて行った誠を待つ間、マスターにジンジャーハイボールを頼んだ。
私は、甘いお酒よりもスッキリとしたお酒がいい。
食事はビールと共に、その後はハイボールで終わる。
あまり、お酒に強くないから度数のわからないお酒なんてもってのほかだ。ここに来ればマスターや誠が気を利かせて先程の男性のように進めてくるお酒を2人が薄めてくれたり、ノンアルコールに変えて作ってくれるから、ここは私のお気に入りの場所なのだ。
「おまたせ」
「ありがとうマスター」
「これ、誠の賄いな」