駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

「うわぁ、美味しそう」


ベーコンとほうれん草のリゾットのいい匂いに、少しだけ食べたくなった。


「そう言うと思ったよ。多めに作ったから誠に食べれる分だけもらえ」



「うん、そうする」


取り皿を持ち、誠が来るのを今か今かと待ちわびてキョロキョロしていたら、視界の端に見た事ある男性が綺麗な女性とソファ席に座っていて、二度見してしまった。


部、部長⁈


なんで?


いつから?


どうして気がつかなかったんだろう?


訳の分からない焦りと、デートだと知っていても、実際目にしてしまうと傷ついている自分がそこに、リゾットで上がったテンションも急降下。


最悪…


意識してしまうと、視界に入れようとしなくても入ってしまう男と女を見たくなくて、顔を両手で覆った。


「理沙?大丈夫?飲み過ぎた?」


聞き覚えのある声と、心配そうに肩を揺する手に誠だと顔を上げると、誠がオロオロしだす。


「理沙、どうした?目にゴミでも入った?」


覗き込む誠との距離が近すぎて、思わずそのおでこを押しのけた。


「近いよ。なんでもないの」


「泣いてるのになんでもないって事ないだろう…」


誠の親指が私の頬を伝う涙を拭った。
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