駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
「本当になんでもないの」
強く言い張ると、一瞬だけ驚いた表情の誠だった。
「理沙」
優しく私の仮の名前を呼ぶ誠の声と優しい手が私を包んだ。
その腕の中で強張る体の背を優しく撫でている。
周りから見れば、痴話喧嘩の末のいちゃつきにしか見えないだろう。
「帰る…ここに居たくないの」
優しくされて、感情が乱れているとわかっているのに、もう、どうしようもない。
見えなくても感じる強い視線に、耐えられないのだ。
「ごめん」
誠の腕の中から抜け出し鞄を掴むと、視線の隅に入る男から逃げるようにレジに向かい、支払いを済ませようとマスターを呼ぶ。
私の態度から何かあったと察していても、マスターはいつも通り会計をしてくれる。
いつもなら、ここで一言二言話をするのだけど、今はそんな余裕なんてない。
お釣りを受け取り慌てて外に出て、やっと振り返る事が出来た。
どうして…
彼が女性といるところなんか見たくなかった。
モデルのようにスレンダーな美人。
彼とはお似合いだった…
彼が誰かと過ごす夜は1人でいるのが耐えられなくて、いつもコンフォルトで誰かと過ごす事で気を紛らわせていたのに、目の当たりにして諦めるしかないと現実を突きつけられた気がした。