駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

スレンダーでも、美人でもない私が相手にされる可能性なんてないってわかっていたのに…里依紗と呼ばれ、心のどこかで淡い期待を抱いていたのかもしれない。


私も28…


もう、無理だよ。


あんな場面を見てショックだったけど、いつまでも報われない相手に恋してる時間なんてないと気がつかせてもらったんだと思う事で、心の中に蓋をして鍵をかけることにした。


決意したようにカツンとヒールを鳴らし、歩き出した。


追いかけて出てきた2人の男がいた事なんて知らないで、新しい恋をしよう…と涙を潤ませながら拳を握り、吹っ切るように自分に喝を入れていた。


もう、振り返らない。


その時、振り返っていれば、あんな無謀な駆け引きなんてしなかければ良かったと思う事もなかったかもしれない。


「里依紗」


今日の連れの女性を置いて里依紗を追いかけて出てきたが、なんて声をかけていいのか分からず、ただ離れていく背を見つめる男。


「理沙」


そして彼女の突然の変化が気になって、やっぱり話を聞こうと追いかけて出て来た誠が、数十メートル先の里依紗の背を見て躊躇いがちに呼ぶが届かない。


男2人の距離は、1メートルも離れていない。
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