駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
「えぇ、全く伝わっていませんね」
「言わなくても、わかるだろう⁈」
「いや、わかりませんって」
「30過ぎて、好きだなんて言えるか?」
「理沙はあなたの気持ちに気がついてませんよ」
「嘘だろ…どうしたらいい?」
「どうしたらって…敵にアドバイスなんてしませんよ、俺は。早く告白でもして振られてください。傷ついた理沙を俺が引き受けますから!」
「どうして俺が振られる前提の話なんだ?」
「愛を信じない男なんですよね。告白したところで他の女と同じだと理沙は思い込んで、あなたの告白なんて真に受けないでしょう。逆に同じ扱いに傷ついてあなたの側からいなくなるでしょうね」
「それはまずいな」
うーんと悩む男に追い打ちをかける誠。
「今思えば、さっき理沙が急に泣き出した原因は、きっと女といる現場を目撃したからなんでしょうね。今から理沙を追いかけて慰めてこようかな」
「あっ、接待中だった。くそ…兎に角、君は里依紗を追いかけなくてもいい。何か手立てを考えて里依紗を繋ぎとめるからな。里依紗の事は諦めろ」
タバコを携帯灰皿に押し付けてポケットにしまうと、店の中に戻っていく男の背を見てフッと笑った。
俺って、人がいいなぁ…