駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
今朝もまだ、若干、目尻が突っ張る感じがあるのはそのせいかもしれないが、なんとかいつもと変わらない表情を保ててる。
彼を見ても、もうときめいたりしない。
彼に肩を抱かれるような隙を作らない。
彼に里依紗と呼ばれても勘違いなんてしない。
彼を待つ間、暗示のように何度も唱えていた。
すると、キャーと甲高い声がしだし、彼がやって来たのだと玄関に目を向ければ、いつもと変わらない笑顔を見せている。
勝手にドキッとする心臓
無意識に舌打ちしたのは、彼になのか?自分の意思に反する心臓になのか?わからない。
いつものように、笑顔でこちらに歩いて来る男。
だけど、何かいつもと違う。
それは、彼を取り囲む女性達も同じらしい。
なに?どこかがいつもと違う。
そうだ…いつもと違うのは女性達に挨拶もしない、目についた女性を褒めたりもしないで、まっすぐにこちらを見て歩いているのだ。
彼と視線が合う。
こんな事、初めてだ…
笑顔を見せながら、一瞬、私だけが知っている悪い表情をし、女性達を無視して私の前まで来た彼はジッと顔を見つめてくる。
整った顔立ちに、決意も忘れときめいてしまう。