駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
「工藤さん、おはよう」
「おはようございます」
エレベーター前で待機して待っていた私に、彼はいつものように笑顔で朝の挨拶をしてくる。
この瞬間、彼を取り囲む女性達から殺意を向けられるのはいつもの事。
それは、いつものように彼が私の肩に手をかけ抱き込むようにエレベーターの中に入って行こうとするのだから…
その瞬間、彼に触れられた緊張で彼女らと同じように私の体も動かなくなるのを、彼は強引にエレベーターの中に連れ込むと、彼女らに極上の笑顔で
「仕事、頑張ってね」
といい、エレベーターのドアを閉めて広報室がある6階のボタンを押す。
2人きりになった途端、ネクタイの結び目を緩め悪態を突き出すのだ。
「あ、臭せー…毎日毎日なんだ、あのプンプンとする香水の匂い。あいつらはつけていて気持ち悪くならないのか?」
ジャケットの前をパタパタと扇ぎ、薄っすらとついたであろう匂いを飛ばしている。
「色々な匂いが混ざっているので、そう感じるのでは?」
「一種類の匂いに絞れば臭くないって事か!」
「…まぁ、つける量にもよりますが!」
「里依紗は…」
抱き寄せながら、腰を屈めクンっと匂いを嗅ぐ男にドキドキが加速しだす。