駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

そんな自分を叱咤して、無表情を貫く。


なぜ見つめるの?


いつもなら彼から先に挨拶をしてくるのにと、沈黙に耐えられなくり


「お、おはようございます、部長」


「うん、おはよう」


本来なら、これこそが正しい順番なのに、いつもと違うからか声が裏返ってしまう。


50センチと離れていない彼の背後に見える女性達の表情が、いつも以上に険しく見えるのは気のせいだと思いたいが、気のせいではないようだ。


それなのに、目の前の男は気がつかないのか、気づかないふりをしているのか⁈


いつものように肩に手が伸びてきた瞬間、一歩下がってエレベーターのボタンを押した。


瞬間


彼は目を細め、笑顔が消えた。


待機していたエレベーターのドアは直ぐに開いたのに、彼は動こうとしない。


「…部長?」


読み取れない表情をしたまま、ジッとこちらを見ているのだ。


そして、ふいっと顔を背けエレベーターの中に入ってしまうので、女性達がザワッとする。


只ならぬ雰囲気に、慌てて私もエレベーターの中に入ってドアを閉めて6階のボタンを押した。


上昇する箱の中は嫌な沈黙が続き、背後から感じる視線が怖くて振り返れない。
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