駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
沈黙のまま彼がエレベーターの壁に背を預ける気配と
いつもと違う雰囲気に動揺しているが、普段と変わらないように努めてみる。
里依紗
と、呼ばれても勘違いしないように構えているのに、一向に呼ぶ気配はないのだ。
おかしい⁈
いつもと違う。
いつも甘さを含んだいい声で名前を呼ばれないと、寂しいと感じている自分がいて、呼んでほしいと願う自分に驚いていた。
彼は、愛を信じない人なのよ。
いつまで、報われない恋をするつもりなの⁈
新しい恋をするって決意したじゃない。
これでいい…
この距離が、本来の関係性なのだと心の中で呟いた。
エレベーターが止まり、ドアが開くと6階までの時間がいつも以上に長く感じドッと疲れを感じると同時に、なんとも言えない雰囲気から出られるとホッともしていた。
彼がまだいる事も忘れ無意識に、フッ〜と息を吐いた気がした。
「次々と男が変わるのに、俺じゃダメなのか?」
突然、真後ろに立つ男から出た強張った声に振り返っるとドアが閉じていく。
人肌寂しくて、彼によく似た雰囲気の男性と酔った勢いで一夜を過ごした事は1度はあるけど、彼氏なんて、目の前の男に恋をしてから1人もいない。