駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

「私にメリットがありますか?」


「あぁ、里依紗が彼女でいる間は、彼女と呼ぶ女は君1人だ」


耳元に近寄り蕩けるようないい声で囁いた後、何か企んでいる悪い笑みを浮かべる男。


今、里依紗と呼ぶなんて…ずるい。


今し方、お前って呼んだくせに君だなんて…


里依紗と呼びながら、距離を置いた呼び方に寂しさを感じていた。


残酷な男


愛を信じない男だから、こんな酷い事が言えるんだ!


私の返事を待つ間、イエス以外の答えなんて出てこないとわかっているかのように魅惑的に微笑み、誘惑してくる男。


その笑顔を一時でも独占できるなら、この誘惑に乗ってもいいかもしれない。


私はあやふやな契約を断る理由が思いつかない。


それなら、答えは一つだった。


「…いいわ」


「契約成立だ」


そう言って魅惑的な笑みを崩さない残酷な男は、少し腰を屈め私の顎を指先でグイッと持ち上げ、悪い顔をした。


その表情に間違えたかも…と後悔した瞬間、触れた唇が自分よりも温かいことにドキリとして動きが止まっていた。


想像だけの彼とのキスなのに、前にも触れた事があるような気がして、無意識に唇が開いた瞬間、濃密なキスに翻弄されていく。

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