駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて
周りなんて気にしてる余裕なんて、彼らにはないのだ。
必死に目の前の自分の仕事に集中している姿に、ホッと息を吐いた。
そして、こんなメールを送ってきた送り主に返事を返す。
『唇を触っていたのは、あなたを誘惑する為じゃなく、口紅が落ちていないか確認していただけです』
そして、しばらく考えてから仕返しを思いつき、また返事を返した。
『部長の唇に少し移ったみたいですよ』
澄ましている男が、自分の唇を親指でなぞり確認している姿を見てニヤッと笑みがこぼれる。
こちらを一瞬見た男は澄ました顔のまま、返事を返してきた。
『残念ながら、移っていなかったよ。今度は、落ちない口紅が移るぐらい濃厚なやつをしよう。あんなキスじゃ俺は物足りない。無意識に俺を誘惑する小悪魔め‼︎俺をからかったらどうなるか後で教えてやるからな』
ほんの出来心の仕返しに満足していたが、向こうの方が上手だった。
頬が熱くなるどころじゃない。
身体中が、期待で反応してしまっていた。
思わず立ち上がり、この場から逃げようと席を立ったがすぐ引き返し、今し方やりとりしていたメールを削除して彼を睨んだ。